試験管


 こぽ、と粘液質な水音。
 ほの暗い部屋の中でぼんやり光る大きな円錐状のガラス。その中に満たされた液体。
 浮かぶ、白い裸体。
 ぷしゅ、とあっけない破裂音を立てて扉が開き、白衣の男性が歩み寄る。
「氷河」
 彼は、そのまるで死体のような身体に向かって声をかけた。
「氷河起きろ」 
 わずかな身じろぎと共に目を覚ます、不健康なほど蒼白い肌と、銀色の髪を持つ……青年と呼ぶには幼いがすでに少年期は過ぎてしまっているであろう、彼。
「今日は双子の“弟”をつれてきた。会うか?」
 特に氷河は動きを見せなかったが、問いかけた張本人はさっさと後ろを向き、その弟やらを呼びつける。
「おにいちゃんハジメマシテ」
 姿を現したのは、燃えるような髪をした同い年くらいの少年だった。
「“炎”だ」
 えん。炎。氷河は口の中だけで音をなぞり、脳裏で正確に漢字を当てはめてみせた。
「よろしくね」
 半袖から覗く、ほどよく日焼けしてしっかりと筋肉質な腕。
 ゆるやかにウェーブを描く、つやつやした真っ赤な髪。
 にこにこ笑う、真夏の太陽のような瞳。
 ……ああ。
 だから、“双子の弟”か。
 

 突然、双子の“兄”に会うよう言われた。
 まだ会ってなかったから一も二もなく頷いたけど、ふと不安になる。
「おにいちゃんって今どんな状況なの?」
 聞いたのは、未だにうっかり外に出ると死にそうだという点だけであった。1週してどうでも良くなった。
 間抜けな音を立てる扉も今日は気にならない。
 どきどきしながら暗い部屋に入ると、思いの外健康的な青年がぷかぷか浮かんでいた。
 真っ白な肌に銀糸のような髪。
 なめらかな腕のほっそりした曲線が痛々しい。
 開かれた瞳は真冬の海を想像させる、凍えそうな碧。
 2,3度瞬きしてまっすぐ見つめてくる瞳がわずかに笑みを刷いたのに気づき、ほっとする。
 
 
 お互いが好印象だったのはここまでだ。





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