[同じ性別は本能に逆らってる?] 不本意ながら、アタシの身体は男性のものなのであり。 彼もそう認識しているからこそ、失礼にも人のことをオカマオカマって言ってたのに。 最近、その彼がおかしい。 「同じ性別ってーのは、本能に逆らってるのか?」 人が転寝しようとソファに身体を預けているのに、何の断りもなく滑り込んできた挙句にこの台詞。 近頃こんな風に接触してくることが多くなった。 最初は気持ち悪がっていたケイティも、目を丸くしていたヴィンセントも、慣れたのかスルーだ。 アタシだけだ。慣れないのは。 「何よ、突然」 そう言って距離をとる。 あの3人組強姦事件(ギリギリ未遂かどうかは意見が分かれるところ。でも入ってたしな…)以来、ダムーはやたらとアタシに絡む。 「そりゃそうでしょ」 律儀に答えてしまう自分もどうかと思うが。 「何でだ?」 「繁殖できないもの」 ヴィンセントがぎょっとしたように振り向き、ケイティがちらりとこちらを見た。 二人でこそこそと話をし、「じゃ、もいっこの部屋で寝てくるわ」という一言と共に速やかに二人は消えた。 ちょっと……! 「アタシも眠いんだけど」 「そうか」 そうかじゃないわよ……。 変なの……。 「どうしたのよ、最近、変よ」 どうしようもないので、直球でいくことにした。 「わからんが……」 この馬鹿にしては珍しく、口ごもる。 もう、早く言っちゃいなさいよ。 「お前のことが気になる」 ま、そんなとこか。 [足を絡めても、生殖出来ない。] びく、と身体が逃げるように跳ねる。 [悩まないわけがないのに。] 「いい加減うざい」 おいおいおいおいおい、ケイティ何だ藪から棒に。 「早く玉砕するなりうまく行くなりしてくんない?」 それは、むこうが何かのらりくらり……。 「そんなの、あのややこしいベラがすぐうなずくわけないでしょ! アンタも男ならどーにかしなさい!」 珍しく個人個人で部屋を取った日の夜の話だ。 夜遅くにケイティ強襲。 わけもわからず話をしていると、気付けば部屋を蹴り出され、白黒はっきりさせることになってしまった。 正直、俺は芽生えたばっかりの自分の気持ちに困ってる。 悩まないわけがない。 今まで恋愛の対象でなかった相手に発情するようになっちまったんだぞ!? 悩まいでか! 単純・直情・悩まないがモットーの俺も、流石に今回ばっかりは……。 しかも相手はあのベラフォードだ。 悩まないわけがない……のだけど。 悩むのは苦手だ。 [依存が深くなる関係。] 「毎晩毎晩毎晩毎晩、よく飽きないわねぇ」 [普通の恋じゃないなんて誰が決めた。(前編)] うっかり身体から入ってしまったこの関係。 日々ずるずると続いているが、ケイティは何も言ってこない(ヴィンセントはもともと勘定に入っていない) でも多分、見てみぬフリとかそういう……! まあ助かってるけど……。 いつまで続くのかわからないけど、終わらなければいいと思うくらいにダムーのことが好きだった。 「気分でも悪いのか?」 耳元で囁かれた言葉がぞくりと肌を粟立たせ、思わず勢いよく振り返ってしまった。 「いいえ、失礼」 危ない。 今はお仕事の真っ最中で、アタシは付き人のフリをして依頼人と街を歩いている。 今回の依頼人はどこぞでは有名な資産家で、何でも地元を離れた街で商売を始めるとかで、その道中の護衛を頼まれているのだ。 今日は、この街の資産家に会いに行くところで、一番付き人としてしっくりきたアタシが付き添うことになった。 ダムーは街をぶらついて情報収集。ケイティとヴィンスは宿で待機。 「そうか」 さっきから、こいつ(依頼人に対する呼び方ではないけど)の視線が気になる。 ちょっと、色めいてるというかなんと言うか。 アタシがこんなんだから、あら同類なのねーでもごめんなさいねーという感じなのだけど、さっきからやたらとボディタッチが多い。 何度もその不埒な手をさりげなく払い除けてはいるのだけど、過敏になる必要があるようなないような微妙なとこなのよね。 これが意図的だったら危険……カムフラージュがうますぎて。 「お待たせ」 どうやら商談はうまくいったようね。 機嫌のよさそうな足取りを見るまでもなく、声が大きすぎて扉の前に待機してるアタシに筒抜けだったんだけどね。きステロタイプでも聞こえるわよ、あれ……。 「お疲れ様。さ、宿に帰りましょうか」 付き人としてどうなのかわからないけど、先導して歩き出す。 一応意識は後ろに置いてあるけど、これだけ安全ならそれほど気にしなくても大丈夫でしょう。 「もう?」 いやな雲行き。 「もうちょっと街を散歩したいな」 前に立ちふさがり、ネコのような目でにっこり笑われる。 「護衛はアタシ一人しかいないのよ? 早く帰るにこしたことないわ」 「そんなこと言わずに」 どんどん先に立って歩き出す。 放って行ってやろうかと思ったけど、そもそも依頼人だし、いい男には甘いのよねーアタシ。 しょうがないなぁとか思いながら、仕方なく付き合うことにした。 「これはなんだ?」 「ええと、この町の名物らしいわよ。パンみたいなものですって」 「へえ……」 「食べたいの?」 「……別に何も言ってない」 「ふぅん、じゃあいいけどね」 「……」 「食べたいなら買ってきたら?」 「……ぃ」 「え?」 「今、必要な金しか持ってない」 「…………これくらい払うわよ」 「賑やかだな」 「ああ、今お祭りの時期なのよ。1週間くらい毎日広場で出し物や出店があるんですって」 「そうか」 「行きたいの? お金ないのに」 「ないんじゃない! 今持ってないだけだ!」 「はいはい」 「……ちょっとだけ」 「人の多いところは歓迎しないわ」 「ちょっとだけ」 「……」 「やった!」 「もぅ……」(ため息) 「楽しかったな!」 「そうね……」 うっかり素直にうなずいてしまったくらい、予想以上に楽しかった。 辺境の町ならではのはっちゃけ方をしたお祭りは刺激的だし、食べ物も美味しいし、なかなかおねだり上手な依頼人もイヤではなかった。 「もう暗くなってきたわ。宿に帰りましょう?」 だから、この提案は少し残念だった。 (だって久しぶりにダムー以外のいい男ですもんねぇ) この気持ちは浮気ではないと思う。 ……ダムーとは、浮気という言葉を使うような関係ではないから。 「……そうだな」 この彼も、同じような性癖の人なんだろうなぁ……とこの数時間で感じた。 だから、物陰に引きずり込まれてキスされても、そんなに驚かなかった。 「……んぅっ……」 呼吸を全部持って行かれそうなくらい熱く求められる。 思わず目の前の身体に縋り付く。 「一緒に旅してる彼とは、こういう関係?」 キスの合間に投げかけられた問いになんと答えようか。 身体の関係はあることはあるけど……それだけだ。 「だったら、何?」 挑発的に下から睨め付ける。 生唾を飲み込んだのが見えた。 「駄目かな?」 さっきまでのおねだりと同じようなテンションで、だけど確実に熱を持った声が囁く。 その間にも、不埒な手は身体を撫で回してくる。 さりげなくその手に抵抗しながら、流されそうになっている自分を感じていた。 ……ダムーは、こんな風に求めてこない。 当たり前だ、彼は普通に女性に発情すタイプだからだ。 それを何かの間違いでこうなっているだけ。 久しぶりに感じる“同じ”相手の愛撫は気持ちよかった。 流されてしまえ。浮気ではない。 そのささやきに屈しようとしたとき。 「これはおまえの合意の上か?」 今一番聞きたくない声だった。 [普通の恋じゃないなんて誰が決めた。(後編)] 「そうだね、言葉ではまだもらってないけどね」 トップに戻る |