思わず、さっきとは違う意味で心臓が跳ねた。
 氷河は元々、すごく気の利く子だ。
 炎以外の誰かが落ち込んでいたらそうと気づかれないように陰でフォローするし、炎以外の誰かが無茶しそうだったらさり気なく止める。
 その氷河に、面と向かって心配された。
 これはなかなかに重症だろう。
 図星を指された恥ずかしさと気まずさは、八つ当たりという反動で出た。
「え? 何? 落ち込んでるから買い物でも連れてってやろうって?」
 急に剣呑になった雰囲気に、わずかに眉をしかめる氷河。
 ああ、俺やっぱだいぶキてるわ。止まらん。
 罵詈雑言は次々と溢れ出し、氷河の綺麗な耳を汚す。
 頭の中の冷静な部分じゃ止めようと思っているはずなのに、言葉が止まらない。
 氷河の白い顔がさらに蒼白くなっていくのをぼんやりとみてしまう。
 かわいそうに……そんな言葉が浮かんだが、即座に打ち消した。
 快感だった。
 俺の言葉に傷ついている氷河に嬉しいんだ。
 薄い氷に沈んだサファイアの如く、冷たく透き通った瞳が曇っていく。ぎゅっとサファイアが小さくなる。
 目元が緊張し、肩が強ばる。
 ポーカーフェイスをほとんど崩さない彼の表情を動かしている、それが快感なんだ。
 
 だって、彼がこんな顔するなんて私の前だけだから。
 
 近くにいたカップルが、こそこそと席を外すのが目の端で見える。怯えているようだ。自分は今そんなにひどい剣幕なのかな。
 あまりの自分の性格の悪さに反吐が出そうなったころ、やっと言葉の奔流は止まった。
 どんどん冷えていく頭に、少し荒くなった呼吸の音が耳障りだ。
「……落ち着いた?」
 まだ表情を硬くしたまま、掠れた声で氷河が尋ねる。
 理性が残っている内に、その場を離れた。





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